単刀直入の直談判と、首相の決断
2020.04.29
安倍晋三首相は16日、新型コロナウイルス感染症対策本部を開いて「緊急事態宣言」を全国に拡大するとともに、「国民一人当たり一律10万円給付」を実施するため、新たな補正予算の編成方針を発表した。
これまで、「収入が激減した世帯に30万円給付」との案が3日に公表されたが、世論の反応は芳しくなかった。
これを含む緊急経済対策を政府が決めたのは7日。同じ日に「緊急事態宣言」を発令して状況は一変する。何しろ、人々の接触を極力8割減らせと呼びかけ、多くの事業者に休業要請したのだから、その影響は、大きく深く広がり始めた。
各メディアの世論調査でも、さまざまな理由で内閣支持率が下がり、この「世帯30万円給付案」も反対が多くなる。「誰がもらえるか極めて分かりにくい」「もらえる範囲が狭い」などの声が殺到した。
このまま実施すれば、給付事務を担う自治体の現場は、収入減の認定をめぐる混乱が予想され、士気が下がる。
「改めるにしくはなし」
私は15日、意を決して安倍首相との緊急党首会談に臨んだ。単刀直入に、「所得制限なしで一律一人10万円現金給付」の政治決断を促した。
16日にも、第1次補正予算の世帯30万円給付をやめて、一人10万円給付への入れ替えを決断すれば、月内成立に間に合い、混乱なく早く支給することも可能になると迫った。
そして、ついに、安倍首相の冒頭の決断となったのである。「君子豹変(ひょうへん)す」である。
全国拡大となれば、ますます国民に不自由を強い、経済全体にも急速にダメージが及んでいく。対策の意思決定から実施までのプロセスが、社会の事情変更のスピードに追いつけない状況は変えなければならない。
補正予算は30日にも成立する。千葉県市川市は大型連休(GW)明けから一人10万円を支給できる手続きを開始した。新型コロナウイルス感染症に対し、国民がこぞって乗り越えていくための連帯のメッセージとなることを期待したい。
この間の取り組みによって、新型コロナウイルスの感染拡大が鈍化する兆しも出てきた。しかし、一旦低下した北海道では、再び増加する気配もある。絶対に緩んではならない。
4月末からのGWは、私たちが感染拡大を阻止するための最大の試練となる。政府も自治体も「家にいてください」と強く呼びかけている。外出自粛が感染阻止に有効であることは世界中で確かめられている。
全国のパチンコ店の中には、休業要請を無視して開店し、そこに他県からも客が押し寄せているとの報道もある。店名を公表されてもなお止めず、開店するから行きたくなるといった開き直りともとれる「自粛破り」が、自分や自分の大切な人の命を奪いかねないことを肝に銘じてもらいたい。
ここからが正念場である。
(公明党代表)
【2020年4月29日(28日発行)付 夕刊フジ掲載】