名を捨てて実を取る岸田・林外交か
2023.03.08
ロシアのウクライナ侵略から1年が過ぎ、世界情勢が激変するなか、林芳正外相は国会日程を優先してインドでのG20(20カ国・地域)外相会合への出席を見送った。
ちょうど、参院予算委員会での基本的質疑の日程とぶつかっており、与野党とも全閣僚出席で質疑する慣例に従って国会出席を求めたうえ、岸田文雄首相も林外相も強い働きかけをしなかったようだ。
米国中心の自由主義国家と、ロシアや中国などの権威主義国家がつばぜり合いを展開するなか、日本は存在感を示せなかった。
これについては、「外交的大失態」とか「日本外交は10年後退した」という厳しい指摘もある。G20の議長国であるインドは、日本の「戦略的パートナー」であり、「グローバルサウス」の代表格でもある。日本が出席してインドの〝顔を立て〟国際秩序回復への結束を促すべきではなかったかと不満や不安をいだく国民も多い。
参院の与党は、新年度予算を一日も早く成立させる責任がある。これまでも国会日程と国益に関わる閣僚の海外出張が衝突するなかで、慣例が確立した。
これを破って、与野党が自らの駆け引きに利用することは「両刃の剣」でもある。今回は国益優先で与党が押し切っても、今後、予算案の送付が遅れて自然成立が見込めないとき、「国益優先」を逆手にとられて年度内成立が危ぶまれる事態に追い詰められる懸念もある。
長く参院自民党の幹部を務めた林外相はこのことを熟知している。岸田首相も参院の責任を尊重したのであろう。
参院自民党の世耕弘成幹事長は、海外出張させず慣例に従ったことに対し、「外務省から一切働きかけがなかった」と述べた。外務省が予想していたように、今回のG20外相会合では、「共同声明」をまとめる成果を出せなかった。
林外相は、予算委員会の基本的質疑を終えて、G20外相会合に続いて行われた、日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み「QUAD(クアッド)」の外相会合に出席し、「ルールに基づく国際秩序に対する挑戦に対抗する」との共同声明をまとめた。
岸田首相は、今月下旬にインドを訪問して首脳会談を行い、G7(先進7カ国)広島サミットに、ナレンドラ・モディ首相を招待する意向を伝えるべく日程調整に入った。名を捨てて実を取るようにも見える。
週が替わって6日、韓国政府は、いわゆる「元徴用工」をめぐる問題で、裁判で賠償を命じられた日本企業に代わって、韓国政府傘下にある財団が原告らに支払うとの解決策を発表した。
岸田首相や林外相は、「日韓関係を健全な関係に戻すものとして評価する」と述べ、日韓関係に関する歴史認識について、「歴代内閣の立場を引き継ぐ」と説明した。
これを機に、両国政府は緊密に意思疎通を図りながら関係を発展させていくことが大切だ。昨年末の訪韓時に感じた〝ふくらみかけた蕾(つぼ)み〟が、やっと花開き始めたようだ。これからが正念場である。
(公明党代表)
【2023年3月8日(7日発行)付 夕刊フジ掲載】