岸田首相は終始、解散の意思はなかったのでは
2023.06.21
先週、岸田文雄首相の「衆院解散」をめぐる発言が、永田町に緊張感を与え、国民の気を揉(も)ませた。発言は、次のように変遷する。
まず、岸田首相は13日、衆院解散について、それまでの「今は、考えていない」から、「諸般の情勢を総合して判断する」などと大きく踏み込んだ。
発言そのものではないが、フジテレビが翌14日、「【独自】16日内閣不信任なら〝即日解散〟岸田首相が表明検討」と報じ、さらに〝解散風〟が大きくなる。
岸田首相は15日夜になって、「解散については考え…こん…今は…今国会での解散は考えておりません」とシドロモドロになりながら、解散を否定した。
岸田首相の心の内の真相は〝藪の中〟だ。本気で解散の道を探ったと見る人がいる。ただ、内々の情勢調査で「過半数割れもあり得る」と出ておびえ、断念したとの見立てだ。
片や、解散する気はないが、解散風を吹かせて防衛費の「財源確保法」の成立を確実にしようとしたとの見方もあり、「解散風をもてあそんだ」との批判につながっている。
しかし、私は「岸田首相は終始、解散する意思はなかった」と見ている。世論の風当たりは、長男の秘書官辞任などで身に染みており、マイナンバーカードのトラブルでも、12日に謝罪している。「財源確保法」は、参院の現場の詰めで週半ばには週内成立のめどが立っていた。立憲民主党単独の不信任案は定例化しており、解散を引き出す迫力を感じない。
岸田首相は、言葉遣いは変化しても解散を意図した言動を自らしたわけではない。表の騒ぎをよそに、官邸の絡む会期後の日程調整が進みつつあった。
そう見てくると、15日夕、岸田首相から私に電話で、「解散はしません。不信任案は与党で否決してください。内外の山積する課題に答えを出していきましょう」と語ったのは、当初からの意志を確認し、巻き上がった解散風を落ち着かせるためだったと合点がいった。
LGBT理解増進法が16日成立した。
反対・慎重派からは、「女性や女児の安全が守れるのか」「教育現場の混乱」「皇室の危機」「米国大使の内政干渉」などさまざまな懸念が寄せられる。女性団体やLGBT当事者団体が、拙速な法制化に反対する記者会見を開いた。岸田内閣支持率下落の一因と見る声もある。
しかし、岸田内閣は一貫して、「多様性を認め合う、包摂生に富んだ社会をつくる」と述べ、先の広島G7(先進7カ国)首脳声明でも、議長国としてこの趣旨を確認した。与党は岸田政権の意志を具体化するために、合意形成に汗をかいた。与野党で3つの法案が出たが、いずれも政府に施策推進の基本計画をつくらせ、理解増進施策を実施させる点は一致していた。
今後、さまざまな意見を考慮して、政府が関係府省連絡会議を設置して推進することが大切だ。先週末の世論調査は、いずれも過半数が法成立を歓迎している。
(公明党代表)
【2023年6月21日(20日発行)付 夕刊フジ掲載】